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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9072号 判決 1968年2月17日

原告

岡田明美

ほか一名

被告

加藤明

ほか一名

主文

1. 被告らは各自原告岡田明美に対し、金二五二、七〇〇円および内金一一七、七〇〇円に対する昭和三九年九月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金銭を支払え。

2. 被告らは各自原告岡田愛子に対し、金一四、〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年九月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金銭を支払え。

3. 原告らのその余の請永をいずれも棄却する。

4. 訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの連帯負担とし、その余を原告らの連帯負担とする。

5. この判決の1、2、項は、仮りに執行することができる。

事実

一、原告ら訴訟代理人は「被告らは各自原告岡田明美に対し、金六二四、二〇〇円および内金五五〇、〇〇〇円に対する昭和三九年九月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金銭を支払え。被告らは各自原告岡田愛子に対し、金一一四、〇〇〇円および内金一〇〇、〇〇〇円に対する昭和三九年九月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金銭を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

(一)  昭和三九年九月二日午後四時四〇分頃、東京都品川区二葉五丁目四六七番地先道路において、被告大沢は、被告加藤の命をうけ、得意先廻りのため、被告加藤を同乗させ、同被告所有の自家用貨物自動車(多四そ四五九九号)を運転して第二京浜国道方面から大井町方面に進行中、該道路は両側に住宅櫛比し数条の小路が分岐し、車両の交通は稀な裏通りであつて、幼児の遊び場となつているところ、右地点から分岐する小路との交差点は三角地帯をなし、そこに設けられている建造物により視界を遮ぎられるのであるから、この交差点を通行するには、一時停止または除行して充分交通の安全を確認すべきであるのに、これを怠り、漫然進行した過失により、折柄右側の小路から歩行し交差点にさしかかつた原告明美(当時三才)に、自車右側バツクミラーを接触させ、同女を路上右側にはねとばして転倒させ、よつて同女に対し、全治まで約二〇日間を要する傷害(右鼻翼の皮膚面から粘膜を貫通し、鼻腔が露出する約三センチメートルの切創、上唇から歯根部に至る約二センチメートルの切創、上眼瞼約二センチメートルの切創、縫合程度順次に五針、四針、三針および後頭部打撲傷)を与えた。

(二)  被告加藤は、前記自動車を所為し被告大沢を使用して、これを自己のために運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法三条により、被告大沢は民法七〇九条により、いずれも原告らが蒙つた後記損害の賠償責任がある。

(三)  損害

(1)  原告明美の蒙つた損害

(イ) 入院費および治療費 五〇、〇〇〇円

(ロ) 整形手術費 九五、〇〇〇円

(ハ) 右見積料・初診料 二、一〇〇円

(ニ) 交通費 五、〇〇〇円

(ホ) 弁護士費用 四〇、〇〇〇円

(ヘ) 精神的損害 六〇〇、〇〇〇円

原告明美は当時三才の女児であるが、本件事故により顔面三か所に合計一二針の縫合を要する傷害をうけたものであつて、その肉体的苦痛自体小さくはなかつたが、手術の結果によるも顔面に傷痕を残し、口唇部はいわゆるみつくち状を呈しているから、今後思春期、婚期を迎える際の精神的苦痛は大きく、さらに後頭部打撲傷による後遺障害の危惧を払拭できないことによる苦痛もあるので、これらの苦痛の慰藉料としては金六〇〇、〇〇〇円が相当である。

(2)  原告愛子の蒙つた損害

(イ) 原告明美の入院中および加療中、内職の洋裁を休業せざるを得なかつたことによる逸失利益、一四、〇〇〇円

(ロ) 精神的損害 一〇〇、〇〇〇円

原告愛子は昭和三八年八月一日夫と死別以来、ひとり娘の原告明美と二人暮らしで、生活保護と内職で生計をたてていたものであるが、原告明美の受傷と傷痕に著しく精神的苦痛を蒙つたものであり、その慰藉料は金一〇〇、〇〇〇円が相当である。

(3)  損害の一部填補

原告明美は昭和四〇年一〇月一六日いわゆる強制保険により、一六七、九〇〇円の交付をうけたので、右(1)の合計額からこれを控除すると、同原告の損害残額は、六二四、二〇〇円である。

よつて被告ら各自に対し、原告明美は右(3)の金六二四、二〇〇円および内金五五〇、〇〇〇円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和三九年九月三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告愛子は右(2)の合計金一一四、〇〇〇円および内金一〇〇、〇〇〇円に対する右同日から支払ずみに至るまで同法所定の右同率による遅延損害金の各支払を求める。

二、〔証拠関係略〕

三、被告加藤は適式の呼出をうけながら本件第一回口頭弁論期日に出頭せず、その後所在不明のため公示送達による呼出をうけたが、その後の口頭弁論期日に出頭せず、被告大沢は所在不明のため公示送達による呼出をうけたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、ともに答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

一、〔証拠略〕を総合すると原告ら主張の請求原因(一)の事実を認めることができ、この事実によれば被告加藤は自動車損害賠償保障法三条所定の運行供用者として、被告大沢は民法七〇九条所定の直接の不法行為者として、それぞれ原告らが蒙つた後記損害の賠償責任がある。

二、右証拠に弁論の全趣旨を総合すると、原告らは左記損害を蒙つたことが認められる。

(1)  原告明美の蒙つた損害

(イ)  入院費・治療費 二八、五〇〇円

右金額を超える部分については、これを認めるにたりる証拠はない。

(ロ)  整形手術費 九五、〇〇〇円

右は既支出の費用ではないが、既に昭和四〇年中、原告らは被告加藤との間に、原告明美のみつくち状の口唇を整形手術する費用を支払うことを約したが、同被告がこれを履行しなかつたものであり、費用を入手できれば原告明美において近い将来該手術をうける予定であることが推認されるから、これを本件事故と因果関係にたつ損害といわなければならない。なお右費用については、いわゆる中間利息控除の点とも相関するので、これに遅延損害金を付するのは相当ではないと解する。

(ハ)  右見積料・初診料 二、一〇〇円

(ニ)  通院等交通費 五、〇〇〇円

(ホ)  弁護士費用 四〇、〇〇〇円

(ヘ)  精神的損害 二五〇、〇〇〇円

原告明美が本件事故により前記傷害を受けたことによる肉体的苦痛自体小さくはなかつたことが推認されるが、外傷治療後も顔面、特に口唇部にみつくち状の痕を残しているから、就学年令に達した爾今も、容貌上の劣等感を次第に覚え、あわせて本件事故の恐怖感を想起して精神的苦痛を蒙ることも推認するに難くないが、整形手術によつてみつくち状の醜状自体は概ね矯正しうるものと思われるので、諸般の事情を併考して、原告明美の慰藉料は金二五〇、〇〇〇円とするのが相当である。

(2)  原告愛子の蒙つた損害

(イ)  内職休業による逸失利益 一四、〇〇〇円

(ロ)  精神的損害

原告愛子が原告明美と二人暮らしで、生活保護による給付と前記内職によつて細々生計をたてていること、原告明美の受傷により原告愛子が精神的苦痛をうけたことは推認されるが、その受傷の部位・程度が前認定のとおりである本件においては、いまだ原告愛子が独立して固有の慰藉料を請求しうるものとは認められない。

(3)  原告明美がいわゆる強制保険からの給付金一六七、九〇〇円を受領し、同原告の損害の一部に充当したことは、同原告の自陳するところであるから、これを右(1)の合計金四二〇、六〇〇円から控除すると、残額は金二五二、七〇〇円となる。

よつて被告ら各自に対し、原告明美は、右(3)の金二五二、七〇〇円および内金一一七、七〇〇円(右(1)の(イ)(ハ)(ニ)(ヘ)の合計から(3)の給付金額を控除した残)に対する本件不法行為発生の日の翌日であること明らかな昭和三九年九月三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告愛子は右(2)の(イ)の金一四、〇〇〇円およびこれに対する右同日から支払ずみに至るまで民法所定の右同率による遅延損害金の各支払義務を負担することが明らかであるから、原告らの本訴請求は右の限度において正当として認容し、その余は失当であるからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 薦田茂正)

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